'O sole mio











空は夏の色をして太陽はジリジリとおれの大切な銀色を反射させている。
パブロフの犬かっていうぐらいに獄寺くんは今おれの足元だ。こうなってしまうのが獄寺くんなのかもしれない。

「じゅうだいめえ」

土下座をしながら平仮名の発音でおれを呼ぶ。

「あのさ獄寺くん、さっき君が云いたかったこと教えてもらえないかな?てれぱしーも悪くはないけどおれも頑張って云いたかったこと、云ってみたし。中学のときの君みたいにおれも君に気持ちを伝えたいんだ、いつだって」



中学一年の球技大会から獄寺くんはおれの事をみていたんだと教えてくれた。
ボスとしての器を試すためにとダイナマイトを投げつけてきたあの日からずっと命を預けて心も預けているのだという。
どれだけ利子をつけたらいいんだよ、獄寺くん。

中学を卒業する頃に一度、獄寺くんはおれを渡り廊下の横にある花壇の前に呼び出して隠し続けるつもりの秘密の告白をした。
その日は雨で傘ぐらい差したらいいのに二人ともずぶ濡れになってそれぞれの家に帰り翌日揃って風邪をひいたのだった。


あってはならないことだって頭ではわかっているんです、わかっているつもりだったんです。
けど、伝えてしまわないことにはオレは、オレは前に進めない気がするんです。後ろにだって戻れやしません。
貴方が好きなんです。貴方が誰かを大切に思うような気持ちでオレは貴方を好きなんです。
不遜を承知で云わせて頂くならそれ以上の気持ちで貴方が好きなんです。

雨粒なのか涙なのかそのどちらともかもしれない水滴が頬を伝って獄寺くんの輪郭をぼやかすのに其の瞳の翠だけはどこまでも強くおれをみつめていた。
世の中には綺麗で哀しいものがあるとおれが知ったのもたぶんこの時だと思う。

おれは獄寺くんのことを好きだったけれど獄寺くんの気持ちに釣り合うような気持ちをもって好きだと伝えられる自信がなかったから雨の音で消えちゃえばいいなっていうぐらいの声で返事らしき言葉をこぼしたのだった。

きみは、カッコイイし、頭もいいしスポーツも万能、だし。もしもおれが、女の子だったらきっと君をすぐにすきになって・・それで・・

獄寺くんは背筋をぴんと伸ばしてから90度より深い角度でお辞儀をしながら後半の台詞をもぎ取るみたいにして言葉を被せていった。

10代目、ありがとうございます。充分です、充分すぎるほど勿体無いお言葉です。でもオレまだ貴方に預けたもの返してもらうわけにはいかないんでお傍にいることは許してやって頂けないでしょうか。

耳は良いのだと云っておきながらおれの言葉を彼はきいてはいなかった。
返事を貰うというより自分の中の区切りにしようという感じだった。そうしながらも瞳の奥では翠の炎を揺らしておれを欲しがっていることが全身を濡らす雨のように沁みこんで沈殿していった。

・・もしおれが、女の子だったらきっと君をすぐにすきになって・・なってなんかいない。おれがおれで、だからきみはここにいるんだ・・それで・・だから。

きこえるようにはっきり云えられたのはただ一言だけ。

そばにいて、いいよ。

本当はそばにいてねと云ってしまいたくなったのをいいよと許可する形にしたのは、おれがいて欲しいって云ってしまったらきっと獄寺くんはおれから離れることが出来なくなるのではと思ったからだ。
獄寺くんはちょっとばかり勘違いをしてしまっているのかもしれないし、だから勘違いに気づいたらいつでも離れていけるように君が居たい間は居たらいいよってそういう事にしたのだ。おれ自身の逃げ道でもあったはずだ。


それから幾巡もの季節がおれ達を過ぎていきお互いの願いどおりにおれ達は隣り合わせだった。
並んで延びる列車のレールのようにおれと獄寺くんは春を夏を走り秋に冬に向かって晴れの日も雨の日も進んできた。
そのままいつの日にか田舎のこじんまりとした駅あたりに到着するのも悪くはないかもとそれぞれの胸に言い聞かせてきたのだけれど。


レールは近づきすぎても離れすぎても歪みを生じて列車を転覆させてしまう。
ボンゴレという名の列車をおれは何処に運んでいきたいのか迷いながら獄寺くんや皆の力を借りて頑張ってきたもののターニングポイントというのは望む望まないに関わらず訪れた。
山本なんかに云わせると、なんでそんなことになってんだ?!今更も今更なのなって話だったようだ。
実際単純なことだった。獄寺くんへの縁談攻勢におれが耐えられなくなったのだ。
元々諦めるのは得意だし大概忍耐強く鍛えられたつもりの自分がどうしても感情をセーブできずその幸せを祈ることが出来なかった。
弾も薬も使わなくても死ぬ気ってなれるんだな。
おれは色んなものをぶっ壊してぶっ飛ばしてぶっちぎって獄寺くんをつかまえた。
レールなんか敷かなくても道はあるし道がないなら飛んだっていい。今更なのなっていうそれが出来たのが3年ぐらい前のことだ。

当然獄寺くんはおれの立場上のことも含めてぐるぐる悩むのをやめた訳ではなかったけれど、より近くで共にあると決めてからは随分とスイッチを切り替えたみたいだった。そっちもシャマルの弟子なのかってぐらいに口説くようになってみたり。イタリアの血がさせるんだろうか。おれ限定とはいえデンジャラスでデストロイでアウトローだ。いつかのハルの獄寺評そのままだけどね。

そうやって関係を結び直したおれと獄寺くんが中学の時にしたささやかな約束を果たしに並盛を訪れたのが今回の出来事。
仕事の都合で一足先に並盛に向かった獄寺くんを時間差でおれが追いかけた形になる。

何を好き好んで湿気で蒸し蒸しの梅雨になど日本に向かうのかとどうせ読心術とやらで知っているだろうに鼻先を鳴らして莫迦にするリボーンを残して飛行機に乗り込んだのは6月の24日。
おれと獄寺くんが初めて出会ったのがその翌日6月25日。中学一年のこの日だった。




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