■雫野 6




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…さっきはありがとう、これ、かえしにきただけなんだ、
わるいことしにきたんじゃなかった。
でもやっぱり、おれはおにで、わるいこです。
おれのことなげとばしてもいいから、
でも、そのあとこのこといっしょに、のはらにかえして。
おねがい。おねがいします。

…まあまあ。
ふたりとも、おれはすきだぜ。
はやくのはらにかえりな。

…すき?でも、このこをなげとばしたんだろ?

…そう。
すもうとってあそんだんだ、たのしかったぜ。
3どめにやっとなげとばしたら、
あたりどころがわるくてのびちまったのを、
ざしきにねかせて、めしもおいといたのに、
めしには手をつけずにいなくなってた。
あ、かさ、おまえにやったつもりだったんだけど、ありがとな。
おまえらって、ほこりたかいのな。


おとこのこはたのしそうにいった。
おれのてをにぎっておこしてくれた、
びっくりした、
はじめてにんげんのてにふれた、
あたたかいてだった、
ちからをいれすぎちゃだめだ、あたたかいてをにぎりつぶしてしまう、
だからちからをぬいてた、
そのこはたしかにちからがつよかった、
でも、おにじゃない、
だきあげられてだきしめられて、あたたかいうでにつつまれて、
ぶるぶるふるえた、
やさしくてつよいこだ、だけど、
おれたちはちがうせかいにすむいきものだと、いまようやくわかった、
ゆうがたののはらで、おれをかすめたけはいはこれじゃない、
こんなにあたたかくいきてない、もえてとろけてしまいそうだもの、
うまれるまえのなにかをおもいだしてしまう、
おもいだしたくなかったことを、
おにがおなかをすかしているのは、ほんとうは、
このあたたかさがほしいからなんだ、って。
すきっていってくれた、おれもすき、
だけど、これいじょうはいられない、
おれ、とけてきえてしまう、
まだきえられない、
だってあのこがひとりになってしまう、だから。


…はなして。


そういったら、そっとじめんにおろされた。
ふりかえると、あおむけのかれは、ぼんやりとみあげていた、
あめあがりのそらを。


…そいつ、おこしてやれるか?
3どめのすもうからこっち、すっかりきらわれちまってさ。

…だいじょうぶ。おこせる、
それと、かれもほんとは、かんしゃしてるよ。

…さあ、どうかな?


にんげんのおとこのこは、わらった。


…かえろう。
ふたりでかえろう。


かかえおこしたせなかは、つめたくどろにしめって、
でもこれがおれたちのたいおん、
すむいえもなくもりやのはらをはだしであるき、
いつもおなかをすかせてさまよっている、
にんげんといっしょにはすめない、おに。


…たたいてごめん。


おれはあやまった。
かれはだまってくびをふった、
きらわれたのかもしれない、
ほっぺたにまっかなてのあとがついていた、
でも、おれもいたい、
たたいたてのひらだけじゃなくて、むねのなかが。
たちあがったかれのてをひいてあるきだした。
ほかのにんげんたちは、もうくちをきかなかった。


…じゃあな、また、すもうしような。

…ばか!おまえなんかとあそんだつもりはねえぞ!


かれがきゅうにどなった、おれはびっくりした、
こんどはかれがおれのてをひいて、どんどんあるいた。
だんだんあしがはやくなって、かれははしりだした、
おれもひっぱられてはしった、
あめあがりのそらから、ひかりがさしてきていた。
はあはあいきをしながら、ずっとはしりつづけている、
かれはぜったいにふりかえらなかった。


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