■雫野 3
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…あなたはよいこで、まだおにになりきってない、
とりあげたかさをかえせば、きっともとどおり、
そのつのは、きえるかもしれませんね。
でもあのこはもう、にんげんのむらのなか。
おれたちは、いってはいけないはず、
しっていた、
にんげんのむらのほうがくからの、つよいきょぜつを、
いまはちいさなつのに、もっとつよくかんじる、
にんげんはきっと、おにをきらっている。
…いいさくせんがあります。
ほんとうなの?いいさくせんがあるの?
おにになったおれでも、むらにはいれるの?
…おにのおれをたいじすればいい。
あんしんしてください、おしばいですよ。
あのちんけなむらのにんげんどもをだまして、
むらのえいゆうになり、あのばかとも、ちかづきになれるでしょう。
なんてこたえればいいのかわからなかった。
でも、そのこはもう、きめたようにいった。
…あめがやんだら、いきましょう。
おおきなきのしたでにんげんのかさにはいって、
つめたいあめのやむのをまっている。
…どうして?
おれをてつだってくれるの?
…いや、じっさいかんがえてみれば、
おにになんかならないほうが、いいかもしれないっすよ。
おにやってるのも、たいへんなんすよ。
まいにちはらがへって、しかたないんです。
おにのおとこのこは、そこで、またとくいげにかたった。
にんげんのむらでの、わるいおこないのかずかずを、
ねことけんかしたとか、にわとりにかみついたとか、
はたけのやさいをぜんぶぬいたとか、
おいかけてきたにんげんにかたいきのみをなげつけたとか、
ねえ、もちろんおれはそんなわるいことしたことないけど、
ほんとうに、おれたちはちがうものなの?
だって、
きいてもきいても、きらうきもちはおこらない。
こもりうたのようにききながら、だんだんねむくなる。
…なかでもはらがたつのは、あのがきです。
いつもはなうたまじりで、おれはおにだってのに、ばかにしやがって。
…きみもおにをやめて、なかよくすればいいのに。
…おれが?おれはもう、あともどりできないっすから。
ねえ、さむくはないですか?
さむくはなかった、はれたひよりも、さむくなかった、
ぬれないように、まもってくれたから?
おぼえのあるかんしょくが、そっとあたまをなでる、
でももうだめだ、くちがこたえるよりさきに、
ねむってしまう。
ゆめのなかのように、みみもとにことばのかけら。
…けがれないあなたに、とおくからあこがれていたんです。
おにでもなくひとでもなく、だれもきずつけず、
ただのはらをさまようあなたに。
つののはえたおれは、やっぱりあなたににあわない。
ぽっかりとめがさめたら、
あかるくなったそらをせなかに、
そのこがわらってみおろしていた、
さいごのしずくがおちる、ぎんいろのかみと、
にぶくひかりをともす、ちいさなつのはきれいだ、
やさしいえがおは、もっときれいだとおもった。
ぬれたかさをじょうずにとじてふって、
ちいさなしずくがまきちらかされる、
そこはやはりみなれたのはら、
おれはたちあがる、
のはらのあるおかのしたに、ちいさなかわ、
そのさきに、にんげんのすむむらがひろがっていた、
ちょっとあしがすくむ。
…いきましょう。
あ、つのだけは、さわらせないように、きをつけて。
…つの?
…つのをおられたら、おには、はらわれます。
つまり、きえてなくなります。
どこかげんじつかんのない、しずかなこえに、へんじができない、
…だいじょうぶ、ねんのためです。
いまのあなたは、かりそめとはいえりっぱなおに、
ほんきをだしたら、かなうにんげんなんか、いません。
そのこはわらって、あるきだした。
きみのことだってたいじなんかしたくない、
おしばいでも、ほんとうはいやなんだ。
それよりも、あめあがりのかぜがふきぬけるのはらを、
つめたいてとてをつないで、あるいているいまが、
ずっとつづけばいいとおもうんだ。
くうきにとけたような、まどろむようなまいにちとちがって、
おれはいまここにいるって、にぎったてから、かんじるんだ。
このきもちを、なんてよぶのかさえ、おれにはわからない。
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