「アレンジメントパレット」~ふわり黄緑せきたてられて~
翌朝。
眠たい目を擦り擦り起き上がり、ディーノを交えての賑やかな朝食、そして見送られてドアを開くと、
「おはようございます10代目っ!」
朝の光に負けないくらい眩しい獄寺の笑顔に会う。
正式に付き合い始める前からすでにお馴染みの習慣といえばそうなのだが、こうして朝一番に好きな人の笑顔を見られるのはとても嬉しい。満面の笑みからは少なからず好かれているのがひしひし伝わって、自然、顔がほころんでしまう。
「おはよう、獄寺君」
我ながら甘ったるい挨拶で一瞬ドキッとしたが、並んで歩き出してしまえばもう気にならない。しまりのない笑顔もそのまま、他愛のない話題を並べるのもお手の物。何を話していいのか分からなかった頃が、まるで嘘みたいだ。
ツナは早速、ディーノが遊びに来たことを告げた。獄寺は予想通り、あんにゃろう断りもなく云々と青筋立てて怒りだし、こちらの苦笑を誘う。それから、ご無事でしたか大丈夫でしたか、と最愛の人の安否を大げさに確かめはじめた。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃありません!跳ね馬には気をつけてください!てか、どーしてオレを呼んでくれなかったんすか?!」
「ごくでらくーん…もう、なんて言っていいか…」
ツナは未だ心配性すぎる獄寺にどう接していいか困るときがある。ご機嫌取りだけなら何となくできそうな気もする。でも、わざとらしく計算をめぐらすのには、まだ抵抗があったし、それよりもさきに、焼きもち焼きの獄寺に慣れるのが先決だった。
ディーノの話題ひとつで、いや、ほかのどんな人の話題をあげたって、獄寺は言葉の端々に焼きもちを滲ませてくる。今では、それが手に取るようにわかってしまう。小さく拗ねる様子が、律儀というか、いじらしいというか、可愛らしいというか、とにかく一度に色んな気持ちを呼び起こされて、ついつい甘やかしてやりたくなるのだ。でも、それじゃあ肝心な話は全く進まない。そうなってしまう前に、一応、これだけは。
ツナは気持ちを切り替え、ディーノが自分と獄寺の関係を知っていることを教えた。
「跳ね馬のヤローが…?」
獄寺は軽く目を見張ったあと、しばし何事かを考えるように視線をあさっての方向に向けた。実のところツナは、獄寺がどんな反応をするのか予測できていない。だから、思案顔がすぐに不敵な笑みに変わっても、それが何を意味しているのか全くわからなかった。
「…あの、ごくでらくん…?」
「大丈夫です10代目、あのヤローが小舅に化したって、すぐにオレが果たしてやりますから!」
「こ、こじゅうとって?!ディーノさんをそういう風に言うのは悪いよ…!」
「なんでですか!」
「なんでって…こっちが聞きたいよ…!」
相変わらず獄寺の思考の飛躍はすごいなと感心半分、呆れ半分。小舅なんて言葉は無礼極まりないのだが、でも、なんとなくわかる部分もある。
ツナは昨日のディーノの言葉を思い出した。
―――獄寺に言いたいこと、ちゃんと言ってるか?
その時は正直言って、何を今さらと思った。
お互いに遠慮しない関係をつくっていきたい。今まで何に対しても一歩引きがちだった自分だから、そして、獄寺も自分に対して一歩引いた距離をとりがちだったからこそ、言いたいことがあったらきちんと言おう。二人でそう決めていた。
それなのに、よくよく考えてみたらおかしかった。記念日の心配をディーノには相談できたのに、獄寺には言えないでいるのだ。今さらながら、大事な気持ちを言葉で伝えているかどうか、暗に問われていたことに気づく。そして心の片隅に放って置かれた小さな気持ちも見えてくる。
心配しなくていい。過保護すぎるよ。そんなことで落ち込むなって。もっと、こっちにきてもいいのに。ボス扱いはやだ。名前で呼んで―――掘り返してみると結構な数の声。それは、たんなる自分の我儘で伝えたとたんに困らせてしまうのではないか。でも、獄寺なら、そういう気持ちだって受けとめてくれるはず。でも、でも―――
そうして迷っているうちに、大好きな人の幸せそうな笑顔を見て、小さな想いは幸せな気持ちの中に消えて、そのまま片隅に忘れ去っての繰り返しだった。結構、いい加減なことをしている。
好きの気持ちにふわふわしながら、日常の浅いところを簡単になぞって満足か。それじゃいやだ。せっかく気持ちが通じあって、付き合ってるんだから、もっとわかりあいたい。二人のことは、もっとちゃんと二人で考えていきたい。
昨晩からグルグルめぐっていた考えがぶりかえし、朝の穏やかな時間もあいまって、ツナのモヤモヤした気持ちは晴れそうになかった。
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