「やさしいひと」
湿度を含んだ夜の道をとなりの影にすがるように歩いている。
壊れかかった水銀灯がジジジと点滅するその下をちょっと避けるように強くもなく弱くもない力でオレの背中を押した其の手は。
薄水色の不規則な羽ばたきに首を竦めるのを見ていたのかいないのか。
「タバコ、吸ってもいいですか」
「いいよ」
少し離れた先で赤い小さな灯りが闇に浮かんでいる。
片手にはさっきコンビニで買った荷物を下げて。
月も星もない闇の中、君の灯りをたよりに歩いていく。
「オレ、荷物もつよ、オレのが殆どだし」
「大丈夫ですよ。全然重くないですから」
そうやって両の手を塞いでいるんだ、たぶん。
「獄寺くんは・・やさしいね」
獄寺くんはやさしい、とても、やさしい。
幾らかの間を置いてなんだか苦しそうに獄寺は言った。
「やさしく・・しているんですよ」
オレはやさしくなんかないからやさしくするようにしているんです、ほんとはちっともやさしくなんてないんです。
低く掠れた呟きのあとに小さな赤い灯が消されて。
オレがなんと言おうかと迷っているうちに右手を強く握られたのだった。
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やらしいひと(笑)