「桜のしるし」
柔らかい陽射しを浴びながら銀の隙間からはにかむようにして獄寺が云った。
「じゅうだいめ、オレ、キスマークってのつけてみたいんですけど?」
ツナは蜂蜜色のまあるい瞳をきょろんと大きく見開いて獄寺の言葉を反芻した。
「え?きすまーく、つけてみたいの?ごくでらくん」
「はい。・・あ、あのオレがつけるんじゃなくて10代目がつけてくださるんでも構いません」
頬を紅く染め長いまつげをシパシパさせながらこころもち距離を縮めてくる獄寺を微妙にかわしてツナは唸った。
「うーん、でもそれはちょっとその、気持ち悪くない?」
その一言を聞いた途端につい先ほどまでツヤツヤと朝摘みの林檎みたいだった獄寺の頬は一気に色を失くしてしまった。
青菜に塩、あるいはナメクジに塩、のごとき萎れ加減だった。
「き、き、きもち、悪い・・っすか・・」
息も絶え絶え、搾り出すようにして獄寺は言葉を返した。
「う・・だって、あの、獄寺くん、きみはアレ持ってるの?今・・」
萎れてしまった獄寺に動揺しながらツナはツナで先ほどよりも随分と険しい表情で言い募る。
「はあ?持ってるって何がですか?何の話ですか、10代目」
「だってさー、おれ母さんからもビアンキからも借りたりできないよ、たぶん」
いつもなら回転のはやい獄寺のこと、斜め上をいくこともあるけれどツーといえばじゅーだいめー、だ。
反応の鈍い獄寺に無意識に焦れたツナの声音は少しばかり尖っていた。
「だからなんの話なんですか、10代目?」
ふうとため息をついてツナは言い放った。
「だーかーらー、きすまーく、ってつけるのに口紅とかいるんだろ?!おれ持ってないよ、そんなのっ!!」
淡いクリームのようなカーテンの裾が揺れて獄寺は自分に温度が戻るのを感じた。
大丈夫です、10代目。あなたとオレがいればあとはなんにもいらないのです。
おしまい。
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電車でうっかりつけられちゃうようなアレです。かつて私はキスマークってそんなんだと思ってました(笑)今時はオチナイルージュ主流ですけどね