「昔々あるところに 」
昔々あるところに小さな宿屋を慎ましく営む父子が居りました。
父はつよしといってかつてはお城でも名をとどろかすほどの剣士だったとの噂もあるのですが、今はただ裏庭で黙々と薪を作るために斧をふるっているのでした。
そして息子のたけしにそろそろ身代を譲って一安心したいと考えたりもしていたのです。
たけしはスラリとしたまっすぐな背筋と正面を見据える黒くて美しい瞳をもった心根も優しい親孝行な息子でした。
父のつよしにおまえもそろそろ良い相棒をみつけてこの宿を切り盛りして欲しいなと言われれば、それもそうかと床を磨きながら考えるのでありました。
どんなふうでもお前が選ぶなら俺は文句をつけるつもりはねえが、できるだけお前がほんものだ、と思った人を選ぶんだぜ?
つよしはそういうのでした。
ほんもの、って一体どんなだろうなー。
たけしは、ランプに油を差す合間にも想像を巡らせようとしましたがはっきりとしないまま日々忙しく働きました。
けれど時々出会う旅の人にも未だほんものをみつけられないたけしなのでありました。
そんなある日のこと、叩きつける様な嵐の晩に泊めて欲しいと訪れた客がありました。
頭の天辺から靴の先まで黒尽くめな客はずぶ濡れでなんとなくみすぼらしい風情でしたが、其の黒い瞳に強い光をたたえながら
「ボクが泊まってあげるんだからありがたく思うといいよ」等と不遜に言い放ちました。
たけしは遠雷に浮かび上がる客の横顔をみつめながら、もしかしたらほんものなのかもとあることを試すことにしたのです。
ぐっしょり雨水のしみ込んだ衣類を預かり暖炉で乾かしている間にたけしはベッドの準備をしました。
宿にあるありったけのふわふわの羽根布団を全部つみあげたのです。
「ボクは寝るけど物音をたてないでね?うるさいとかみ殺すよ?」
なんだか恐ろしい言葉をきいたような気もしますが嵐の中歩いてきたので余程疲れているのだろうとたけしは思いました。
翌朝、嵐はうそのように止んですっかりうつくしい晴れ間が広がりました。
たけしはおはようを云いに林檎をポケットを入れてから客室をノックしたのですが、開いた扉の向こうからは剣幕の表情で睨みつけられたのでした。
「おはよう、ヒバリさん。よく眠れなかったのかい?」
睨みつけられたことは気に留めずたけしは挨拶しました。
「よく眠れたかだって?」
組んだ腕をもう一度組みなおし凍るような声でヒバリという名の客はいうのでした。
「君ねえ、ここはなんて酷い寝台を用意するんだよ、布団の下に何か固いものがあってボクは一晩中いやな心持にさせられたんだ。体中痣だらけだよ、どうしてくれるのさ。責任とってくれるのかい?」
「ああ、そうなのなーー。わかった、おれが責任とるな。ヒバリさんこれからおれの嫁なー」
実は昨晩寝台を用意するときにたけしは沢山の羽根布団の下にえんどう豆をたった一粒置いておいたのでした。
それに気づいて怒るなんてきっとほんものに違いありません。
たけしは責任をとることにし、ひばりと末永くしあわせにくらしました。
めでたしめでたし。
・アンデルセン「エンドウ豆の上に寝たお姫様」のパロ。どのへんが本物なのかは莢の中にでもあるんじゃないのかな?(笑)