「初夢」



テレビからはタレントたちの賑やかな笑い声やさざめきが絶えず流れていたが、ソファにうつぶせになっていたツナは半分眠りの入口にいた。

瞼が閉じたり開いたりを緩慢に繰り返し、時折大きなあくびをする。

「10代目ー、お待たせしました・・って、もうお休みですか?」

タオルで髪の裾を拭いながら居間に戻った獄寺はドライヤーは諦めるべきかと考えた。

テレビのリモコンをオフにして触り心地のよいブランケットでツナの肩口から包み込む。

「んー・・ん?」

小さく伸びをしてツナは自分が本格的に眠りそうだったことに気づいた。

「あーー、ごめん、獄寺くん。オレ寝そうになってたね」

「起こしちまいましたか。寝そうにっていうより殆ど眠ってましたけどね。でも此処よりちゃんとベッドで寝てもらった方がいいんで結果オーライってとこかもですね」

「あ、うん。此処も居心地良くてついついさあ。それより獄寺くん、もっとちゃんと髪乾かしたら?風邪ひいちゃうよ?」

ツナはすっと手をのばして獄寺の前髪をひたひたと揺らして滴をはらった。
眠たげだった顔がふわーっと優しげな笑みで満たされ、つられるように獄寺の笑みも深まった。

「ありがとうございます。じゃ、オレ、ドライヤーかけちゃいますね。10代目は先に休まれてていいっすよ。それとも何か飲まれます?」

「うん、じゃあホットミルク飲んで待ってるよ。レンジ借りるから獄寺君はしなくていいよ・・て、それ・・何そんなに慌てたの?」

獄寺のパジャマの端をひょいとつまんでツナがまた笑う。

「え、え?そんなに変ですか?」

「そんなに変もなにも獄寺くん、そのパジャマ裏返しじゃん」

「はあ・・まあ・・そう、なんすけど・・」

スタイリッシュな獄寺にしては間抜けな間違いだなあとツナはある意味嬉しくなっていたのだが、微妙に目を泳がせた獄寺はそのまま着替える気配はみせなかった。

「ん?そだね。めんどくさいしそのままでもいっか?それとももしかして最近はそういうのが流行なの?おれオシャレとか疎いからなあ」

「えーと、そのオシャレとかじゃなくってですね・・.」

何を口ごもる必要があるのかとツナがちょっと怪訝な目を向けてやれば獄寺は慌てて口を開く。
「あーー、あれです。いわゆるオマジナイってやつっす」

「おまじないい?」

ツナは裏返しのパジャマと獄寺の顔を交互に見比べていったいまたこの人は何をしようとしているんだろうと考えた。

「あの、夢がみられるんですよ。ほら、今夜のって初夢じゃないですか。だから、それで」

「初夢かー、そういえばそうだっけ。でも夢が見られるって、なんか決まった夢なの?いい夢なんだよね、それ?だったらおれもパジャマ裏返すかなあ、トレーナーだけど」

がしがしとまだ湿り気の残る髪をかきまわし映っていないテレビの方向をみて獄寺はもごもごとツナに云った。


「好きなひとの夢がみられるんですよ」

薄っすらと染まった頬の赤味はあっというまにツナにも伝染してしまう。
目じり迄あかくしたツナは勢いよく立ちあがるとわざと音をたてるようにして洗面所に向かいさぶざぶと顔を洗った。

「10代目?」

ドア越しにちょっと心配そうに声をかける獄寺にツナは叫ぶ。

「獄寺くん、出かけるから準備して!初詣に行くよ!!」

「え?明日じゃなかったんすか?」

「いいんだよ。今から行こう。夢じゃなくたって今一緒にいるんだからいいだろ!」

ばたばたと慌てて裏返しのパジャマを脱ぎ捨てる獄寺をみながらパジャマのままで出かけるのも存外楽しかったかもとツナは思った。


おわり。

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いとせめて 恋しきときは むばたまの 夜の衣を 返してぞ着る

って歌がありますね。そんなようなお話。うちの獄寺って「月刊おまじないコミック」とか買ってそうで厭ですな(笑)