「我儘な右腕」



マホガニーの木目の幅を計るみたいに指先がテーブルをこつこつと行き来する。
空調機で整えられた室内は快適なはずであるのにその手のひらはじわりと汗ばみ
ツナはその顔に不機嫌を隠さなかった。

「獄寺くん、ねぇおれの話聞いてる?」

「勿論聞いてますよ、全身全霊を懸けて一言一句洩らさず拝聴してますよ。なん
なら繰り返して差し上げましょうか?」

獄寺の即答にツナは大袈裟に溜め息をついてみせさらに首をぐるりと回した。

「10代目、おっしゃっていることはわかります。わかっているつもりです」

「わかっててやるのが一番悪いって誰かに習わなかったの?」

「すみません。生憎まわりにいた人間にはそういうことを教える奴はありません
でした」

いつもなら途端に身体を二つに折り畳んで、申し訳なかったとかオレが間違って
ましたとか言いながら謝り倒すタイミングなのに獄寺は、言葉は謝罪の単語を並
べたが、ツナの非難めいた視線にも折れることなく後はただ黙っていた。

照明の加減か濃い翡翠に黄金色の環が映りこんだ獄寺の目はまっすぐツナを追う。

「あのさ、君は“おれの”なんだろ?だったらもう少しくらいはおれの言うこと
きいてくれてもいいんじゃないかな…」

沈黙に負けたのはツナのほうで、けれどこの場を譲るつもりもなかったのでついには
手札の中からなけなしのジョーカーを切ってしまった。

まばたきをひとつ落として獄寺はとん、とツナを自らの胸元に引き寄せた。
拘束されているわけではないのにそのまま動けない。

「10代目、音聞こえますか?」

獄寺の心音にかぶさるように頭上から声がする。

「聞こえる、よ」

「10代目、10代目はオレの心臓でオレの血液です。なかったらオレは生きて
いけません。…10代目にとってはオレはなんですか?」

「…そんなのって卑怯だよ。…そんなの一緒だろ!心臓で血液だろっ!」
背に軽く添えられていた腕が意思を持ちぎゅっと力を込められる。

「じゆーだいめ」

甘えるようにどこか楽しげに獄寺の声が押し当てられた胸元の律動に混じって耳
をくすぐる。

「じゆーだいめ、オレは貴方の右腕、だけでも不服は勿論ないですけれども。で
ももし心臓で血液だっておっしゃるなら、おっしゃって下さるなら。仕方ないん
ですよ。不随意筋なんですから。」

「なんだよ、それ」

また勝手なことを言い出した不随意筋とやらに包まれながらなんだか眠くなって
きたしこのまま寝ちゃえ、そんで困ればいい。もう少し勝手に演説してるがいい
よ。

ツナは瞼を閉じた。

と、聞きなれた声が無意味に跳ね始め身体を囲んでいた両腕も一緒に跳ねている。


「不随意筋はですね…ヒック !!じゅ、ヒャック!自分の意志だけじゃ止められ・・ヒック!」


右腕で心臓で血液な男は四半時ほど横隔膜の氾濫に遭い、眠り損ねた彼の主をおおいに
笑わせ、グラス一杯の水と愛を賜った。