「アポストロフィ・エス」




まだ夏だと云ってもおかしくないくらいの暑さの中、沢田はアイスバーをくわえながらゲーム雑誌のページを眺めていた。

そして、楽しみにしている新作ゲームの発売情報をチェックして懐具合との状況に頭を巡らせ優先順位を決めたり、
発売延期になった人気ゲームに思いをはせたりしながらページを捲っているうちにアレレ、と気づいた。

9月9日って確か誕生日だったよな、獄寺くんの。

右腕として自分を売り込むことにかけては相当な情熱を向けてくる獄寺であったが、誕生日のことについては特に話題の
端にのせることもなく沢田もうっかり忘れかけていた。
祝う気がなかったわけではなく誕生日にはお祝いしようと思っていたのに夏休みの喧騒の毎日で日付を失念していたのだ。

ゲームはまだ買っていないから多少は軍資金も残っている、何かプレゼントのひとつでもあげたいけど。


実をいうと沢田は、世間様は勿論のこと身内にも内緒で獄寺と交際・・らぶらぶ?なおつきあいというのを始めていたので
それはもう一大イベントな筈である。

どうしよう、何あげたらいいのかな?なんか喜んでくれるものがいいよね。

ゴロゴロと狭い室内を無駄に転がりながらあれやこれやと考える。


「んなのお前がやるもんだったらゴミでも喜ぶぞ。そんなつまんねーこと悩んでる暇があったら勉強しろよツナ」

ハンモックの上から小粋なヒットマンの抑揚のない声と共に弾丸が沢田の脇を掠めていく。

「なっ!勝手にひとの頭の中読むなよ、リボーン」

「ふん。まあ部下の掌握もボスの務めだからな。ちっとは喜ばせるのも悪くねーかもな。俺の誕生日のプレゼントも
せいぜい今から考えておくといいぞ。ボンゴリアンパーティーもあるからな」

そうでした・・恐ろしいボンゴレ式パーティーも来月に控えてる!ってそれもヤバイけどまずは獄寺くん!

黒衣の死神リボーン先生のご意見を伺ったところでほぼ参考にならないばかりかヒドイ目にあう予感を確信したので
沢田はそそくさと自室をあとにし外に出た。


これといってあてがあったわけでもなく誰かに相談するといっても山本ぐらいしか思いつかず山本の家に向かってみた。

店先で打ち水をする山本の父親に挨拶すると武はバッティングセンターに行ったと教えられたのでそちらに行くことにしたが
歩いている途中で思案の元である獄寺とばったり会った。

沢田の姿を認めたとたん険しかった表情を破顔させあっという間に駆け寄ってくる。

「10代目ー、どちらかおでかけですか?オレもご一緒して構いませんか?」

「あ、えーと、特にでかけるつもりじゃなかったんだけど・・。でも、うーん」

歯切れの悪い沢田の返事に獄寺はみるみる萎れて肩を落としている。

がっかりしすぎだよ、獄寺くん。しかも何も云ってないのに。

ちょっとだけ迷ったけれどあれこれ考えても決まらなかったことだしサプライズという意味では弱くなるが本人にきくのが
やっぱり早いということで沢田は切り出した。


「あの、獄寺くん。君にききたいことがあったんだけどさ」

「はい、なんですか?預金口座の暗証番号でもスリーサイズでも遠慮なくきいてくださいね!」

相変わらず無駄に張り切っている。

「獄寺くんは何か欲しいものってある?あ、右腕の座とかはナシの方向で」


とりあえず近くの公園で話をすることにして沢田と獄寺は歩き始めた。

「欲しいものっすか?新しいダイナマイトの試薬とか特訓ルームとかそういうのですかね?」

「そんなのが欲しいんだ?獄寺くん。いや、できればマフィア的なそれでもなくて割と普通に欲しいものってないの?」


公園のベンチのゴミをささっと払い座るように促す獄寺を眺めながら、直接きいてもあげられるものじゃないに300Gだなと
沢田は今やっている携帯ゲームのカジノに思いをはせた。

「そうですね、金はあっても邪魔になんないっすね」

正論と言えば正論。獄寺にしてはまともな意見だと失礼な感想に頭を振る。だからといって誕生祝いに金一封っていうのも
納得いかない。

「そしたら10代目に不自由かけないですむじゃないっすか!ゲームとか差し上げても気にならないでしょう?」

「気にするよ!」

貢ぐ気満々だ、このひと。

「そんな、オレと10代目の間で気にすることなんて全くありませんよ~」


昼下がりにくつろぐ好々爺のような笑顔で獄寺はご機嫌な様子である。埒が明かない。

「あーー、もう単刀直入に聞いちゃうけどさ、オレがあげられるもので何か欲しいものってない?」

「え?何かくださるんですか?」

「うん、だってほら、獄寺くんもうすぐ誕生日じゃない。だからオレなにかしたいなあって」


瞬間、獄寺の目がまるく瞠られ次にはベンチから剥がされるみたいにして沢田は抱きしめられた。

「10代目えー」

「ああ、うんうん。そのここ一応外だからあの、獄寺くん?」

口の中でモゴモゴ言いながら獄寺の背中をあやすようにぽんぽんとしてから沢田はそっと腕をはずすように促す。

「あの、オレ嬉しくて。外なのにすみません。・・欲しいものですけど、10代目のお気持ちを頂いたのでそれで充分です。」

「気持ちって。まあほんの気持ち、ってのになっちゃうけどさー。でも何かあげたいんだってば。何がいい?言ってみてよ」


名残り惜しむみたいに殊更ゆっくりと腕をはずす獄寺にやっぱりそのままでもいいよと言いそうになった自分の考えに気付いて
沢田は顔が熱くなり恥ずかしさを誤魔化すように大声を出した。

「10代目がくださるものでしたら何でも嬉しいですよ。」

リボーンのいった通りの答えキターー・・・。でもゴミはだめだろ!

「なんでもじゃ困るよ。ほんとになんかないの?」

睨みつける勢いで獄寺の顔を覗き込むと逆に強い視線でじっとみつめられてしまい沢田の脈拍はどんどん上昇した。

「10代目が欲しい・・・ものが欲しいです」

ん?今なんか言い直したのか、ひょっとして。なんかかなりあれなこと言わなかったか、獄寺くーん。

「おれが欲しい・・もの、がいいの?」

ああもうなんだよ、困るよ、ほんと。ゲームとか雑誌とかCDとかあげたら君は喜ぶわけ?喜ぶんだろうなあ、たぶん。

だってほんとに困るんだ、そんなの。おれがほしいものなんておれは獄寺くんにはあげられない・・・。


汗ばんできた両手を開いたり閉じたりしながら観念したように沢田は言った。

「おれの欲しいものはあげられないと思うよ、獄寺くん」

「あ、はい。無理に頂くわけにはいかないのでそれは構わないんですが、何なのかは教えて欲しいです」


獄寺はいつの間にか背筋をピンと伸ばし膝を揃え、レコード会社のシンボルの犬のように拝聴致しますの姿勢になっている。

「だってさ、おれが欲しいのって獄寺くんだもん」

シンボル犬はそのままの姿勢で固まっている。

「獄寺くんの笑った顔が欲しいし、おはようとかおやすみとか欲しいし、優しい声とかも欲しいし、ぎゅってするのもその、
欲しいし・・・でもそれはおれのじゃないからあげられないだろ」

「いいえ、オレは10代目のものですよ。だから10代目がオレを欲しいならオレをオレにください」

オレオレ詐欺かーー?!


なんか訳わかんないこと言い出した。おれが変なこと言ったのも悪いんだけど。えーとおれのものな獄寺くんを獄寺くんに
あげるってことは・・・。

「それって獄寺くんを返せってこと?おれのじゃないってことにすればいいの?」

自分で言ってみてなんかすっごく凹んだぞ。どうしてこんな事態になってるんだろ。


「違いますよ」

獄寺は素早く左右に視線を走らせて周囲を見回してから、ちゅっちゅと沢田の目尻と頬を軽く啄ばんだ。

「10代目、こんなふうにオレは10代目にいつも嬉しい気持ちとか幸せな時間とか貰ってるわけですよ。それでですね、
その度にきっとオレはパワーアップっていうかリニューアルしてると思うんです。勇気+1あがった、みたいに。
だから10代目はそうやってこの先も新しいオレを下さい、オレに」

こんなの反則、ずるいよ獄寺くん、と耳を赤くして言葉をなくす沢田をこれ以上ないくらいとけた笑顔でみつめてから
獄寺はその赤い耳元に「それからやっぱり10代目も欲しいです」と小さく囁く。



残暑の残る公園のベンチから何度か気温があがっているんじゃないかなあと思いながら
バッティングセンター帰りの山本は二人の姿を見なかったことにして走り去った。

「おめでとう、獄寺隼人」


FIN

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遅刻しましたが誕生祝いに。甘いよ!水ください。あ、コップじゃ足りないんでもうバケツで頭からかけてやってくださ・・。