「アキレスの踵」






本当に欲しいものは両手に掴めるぶんに留めておくべきだと誰かに言って聞かされた気がする。

或いはそれは暇つぶしに斜め読みしたペーパーバッグの一文だったのかもしれない。

どちらにしろオレの本当に欲しいものは分不相応ってやつに違いない。



石の擦り減ったライターは小さな火花を不規則に散らし、それを弄ぶ手のひらから放り投げられ床に凹みを刻んだ。

欲しいものも守るべきものも両手に足るものでなければ、それはいずれあっというまに指の隙間からこぼれおちてしまうだろう。
掴んだかのように思わせてあっという間にすり抜けていったあのリングのように。



桜、七夕、祭り。海水浴を、花火を、雪合戦を。

共にありたいと叫ばれた記憶が幾度となく魂を焦がす。



じりじりと夜は部屋を覆いつくしざわりと足元から這い上がってくるようだった。

10代目の望まれるもの、望まれることがオレの望みであることに間違いはないけれどたぶんそれはイコールではない。




オレの欲しいものなど数えても片手でも余るが抱えようとするならどうにも届きやしない。


10代目を守りたいのならオレは世界を丸ごと守る力を手に入れなければならない。
優しいお母さまのふわりとした笑顔もガキどもに振り回される煩雑な日常も他愛ない屋上での休憩時間も、どれひとつとして欠けずに守る力を持たなければならない。



10代目を欲しいならオレは世界を丸ごと壊す力を手に入れなければならない。
守るべき世界を壊す力を持たなければならない。