「たまご」
なにしてるの、ごくでらくん
囁く声があどけなくて、ああこれは夢だなと獄寺は思う。
珍しい。ここ暫くは夢も覚えていないほど短時間で深く眠る生活が続いているのに。
積もった職務に戻ろうと覚醒しかける意識を、何とか夢に押しとどめたいと、獄寺は映像に集中する。
背後は暗闇ながら、うっすらと森が浮かび上がっている。
月夜なのだろう。並盛山だろうか。
少年の姿は輪郭がうっすら白く発光しているかのようで。
ああ、白いTシャツか。夏休みだろうか。
ふっくらした頬が幼い、懐かしくも愛しい綱吉が、暗闇で自分を見下ろして微笑んでいる。
オレは、寝そべってでもいるのだろうか。
しゃがみこんだ綱吉が覗き込むようにして微笑んでいる。嬉しい。
大きく破顔した状態で、獄寺は目を覚ました。
ああ、もったいない。
いつもなら時刻を一番に気にするところだが、今朝に限ってはあの夢が惜しい。
てっきり記憶の引き出しから出てきたものだと思っていたが、こうして目覚めてみると、
あの綱吉は記憶の中の姿ではなかった。
ごく最近、よく似た体勢で綱吉に見つめられたことならある。それを幼い映像に置き換えてしまっただけなのか。
ベットの上に身を起こした獄寺は、思わず大きく項垂れた。
あの姿はどう見ても十代だった。ロリコンか、オレは。
綱吉の呆れ顔が、たやすく脳裏に浮かぶ。
ヘンタイの実績をまた一つ増やすのは、己の自尊心にも関わるから阻止したい。
夢の映像を現実の、二十代半ば、本来の記憶と一致する綱吉に塗り替えて。
ようやく安堵した獄寺は、疲れの抜けきらない身体をベットから引きはがした。
【おわり】
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るうさん、右腕さんのひとときの幻と慌しくも充実した日常への帰還の掌編をありがとうございます。夢という卵の中の10代目が愛らしくて一緒になってほっぺむにむにしたいです。