「あ、雨」
放課後の、吹奏楽部の練習する下手くそな楽器の音と、練習中の運動部の暑苦しい声ばっかりが聞こえてくる中で
唯一オレの心を不快にさせない、というかしあわせにしてくださる声が左斜め下から聞こえてきた。
が、その内容はオレをしあわせにするばっかりじゃなかった。
廊下の窓から空を眺めながら、10代目が続ける。
「最近雨多いよね~まあ梅雨だからしょうがないけど」
「すっげーイライラしますよね」
眉間に皺を寄せて、不快感を顕にしてオレは返事をした。
だって雨なんか湿気でベタベタするし髪だってまとまんねーしいいことないですよ。
「確かにじめじめすんのとかちょっとやだけど…でもオレ雨って別に嫌いじゃないよ」
「んな…っ」
なにを言い出すんですか10代目。
キライじゃない…?いいことなんてひとつもないのに!
「本気でおっしゃってるんですか?10代目…」
「え…そんな思いきり不思議がられないとなんないことかな?
一番の理由は体育が自習になるかもだからなんだけど」
確かに雨が降ると体育の授業は自習か、体育館に移動になる。
10代目の肌が紫外線から守られるのは確かにいいことだ。非常によい。
そもそもあんなお遊戯みたいなもんに10代目が付き合うこと自体おかしいんだが。
しかしオレは退きたくなかった。
「洗濯もんも乾かねーしお母様もお嘆きでしょう」
「えっごくでらくん自分で洗濯とかすんの」
意外なところをつっこまれた。論点はそこではないのです10代目。
とは言え、10代目がオレの私生活にご興味を…!感激です!
「オレはいっつもコインランドリーですよ!」
「あ、そうなの…」
10代目は拍子抜けしたような、やっぱりといったような顔をなさった。
それから話を元に戻す。
「母さんはチビたちとはしゃいでるよ…蛇の目でお迎えね~って。
あーでも確かに洗濯物はおひさまの下で乾かしたやつのが気持ちいいよねえ」
ジャノメとはいったいなんなのでしょう。
気になったがそれより聞き逃せない言葉を耳にした。
「10代目は晴れの方がいいんですか!」
「えっオレじゃなくて獄寺くんがそうなんじゃないの」
「晴れはあの、悩みのなさそうな感じが気に入りません」
「え~!?(意味わかんねえ…)じゃあ、間をとって曇りがちょうどいいってやつ?」
「雲はなにかと目障りです」
「そう…」
10代目はもう半ば呆れ気味な表情になられていた。
しかしだいじなことなのでここで諦めてはいけない。
「じゃなくて!オレのことはいいのです。来週は台風が来るそうなんですけど10代目は」「えっまじで!」
台風はお好きですか、って続けたかったのを遮られてしまった。
が、もう訊く必要もない感じだった。お顔を見れば一目両然だ。
「え~…それは、困るよね…」やっぱり!
やっぱりそうなんですか!
「どうしててですか!体育どころか学校が休みになりますよ」
「そりゃあまあそうだけど…」
「お母様も雨よりきっとわくわくなさいますよ」
「いやそれはどうだろう…てかかーさん好きだね獄寺くん」
「だって10代目のお母様ですから!って話になると長くなりますのでそれは今は置いておきましょう10代目、」
それから一拍置いて、核心にふれる質問をする。
回りくどいのはだめだ、性に合わない。
「10代目は、嵐は好きでいらっしゃるんでしょうか」
訊いてしまった。ああああああ!!
よく考えたらキライって言われたらどうするか考えてなかった!
いやそんなことあるはずないんですが万が一!
恐る恐る10代目のお顔を伺うと、きょとんとしていらしゃる。
それからちょっとしておっしゃる。
「そういうことかー」「10代目?」
そういうとはどういう…と思考をめぐらしているとこう続けられた。
「オレ、台風ってあんますきじゃないよ」
「な…っ」
そりゃあそうか。
嵐なんて言うなれば災害だ。
起こらないほうがうれしいですよね。
ソーデスヨネ…
泣きそうな気分だったがとりあえず自分に言い聞かせる。
「だって学校休みになったら獄寺くんに会えないし」
へ…っ
「え、じゅ、今なんて」
「本降りにならないうちに帰ろう、獄寺くん」
「10代目!もういっかいお願いします~!!」
「絶対言わない」
そうおっしゃって10代目はぷいっと顔をそらして早歩きになった。
後ろのオレからちょっとだけ見える耳が赤い。
ちょ…っもー可愛いですじゅうだいめってば!
「大丈夫ですよ嵐だろうとなんだろうとオレ10代目の元へ駆けつけますから!」
「危ないし!ほんとにやりかねないからいやなんだよ!」
そんな話をするうちに昇降口。
ずっと早足だった10代目がぴたっと止まる。
「10代目?」
調子に乗りすぎで怒られる…?
「オレ、今日実は傘忘れたんだけど」
「獄寺くんは持ってる?」
…!!
「はいいい!こんなこともあろうかと常に傘を学校に置きっぱなしです!」
ゆーうつでしかなかった雨が、オレと10代目の下校時間をよりすばらしいものにしてくれるとは。
すっかりうきうきで傘を広げる。
「ね、獄寺くんやっぱり雨きらい?」
「…たまには雨の野郎も役に立つんスね!」
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